The World
 綺麗な横顔が、輪郭を露にする。

ぼんやりした目線の先は、落ち葉に赤く化粧された花壇、その奥には、昼下がりの青空が広がっている。

整った鼻筋、それから、唇。

そこから度々吐き出される煙は、先生の着ている真っ白な白衣を汚してしまいそうなほど、病的な感じがした。


それを繰り返す、口の運びをじっと見ていると、先生の視線が突然こっちへ向けられたのが分かった。はっとして目を逸らす自分が、どこかわざとらしくて。


「……何?」


先生の刺すような言葉は、更に私を惑わせるのだ。


「せ、先生、煙草吸うんですね」

「まぁね」


話を逸らす精一杯がこれだ。私は機転が利かないらしい。
先生の気はそれでも逸れてはくれなくて、視線は弱まらない。
舌が勝手にくだらない話を進めていく。

「それ、美味しいんですか?」


……違う、そんな事を話したいわけじゃないのに。


「吸ってみるか?」


え、と一瞬時間が止まったような気がした。未成年に、仮にも一教師が煙草を勧めるとは。

「な、何を……」

「冗談に決まってるだろ。高校生の分際で、煙草なんか吸うもんじゃねぇよ」

ふっと笑った先生は、やっと私から視線を遠くへ移す。
何だか金縛りから解かれたような、変な安堵さえ感じてしまっていた。
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