The World
「お前、寒くないの?」
確かに、寒い。足が寒さでガクガク震えている。
この人を一目見たかっただけなのに。一言声を聞きたかっただけなのに。
今じゃ、そんなんじゃ足りない。もっと、一緒にいたい。寒いのなんて関係ない。
会えば、貪欲になっていく。
「寒く、ない」
「嘘つけ」
「嘘じゃないもん」
大嘘だ。
だけど、寒いなんて言ったら即帰宅だ。寒いなら帰れって怒られるかもしれない。
とうとう呆れたか、黙って背中が去っていく。
もう、何て言えば上手くいくんだよ。
背中を追っていた視線が、振り向いた先生とぶつかる。
先生は困ったような顔をして、缶を差し出した。
「ほら、これやるから」
少し冷めてしまったココア。程好い温かさが頬から伝わってくる。
「飲んだら、帰って腹巻きして寝ろ」
「腹巻きって……。そんなの持ってないです」
思わず笑いが漏れる。
「うるせぇ。例えだ」
ぬるいココアからは、優しい味がした。先生には似合わない、苦くない、甘い味。
少しでも長くいられるように、少しずつ飲む。
先生が私といる事を選んでくれた時間。
私の頭に手を置くと、困ったような顔で先生は白いため息を吐いた。
顔が自然と綻んでしまう。
先生からそれが見えないように、こっそりと笑った。
―ため息―