The World
「血なんて、繋がってなければよかったのにね」

「……そんな事ない。じゃなきゃ、きっと出会ってなかった」


涙が零れそうになった。

許されない私達を赦すのは、結局、自分達だけで。お互いに心を埋めようと必死なんだ。

顔を上げると、優しく唇が触れ合った。

同じシャンプーを使って同じ歯磨きを使っているのに、どうして、恵太からは違う匂いがするのだろう。どうして、こんなにも温もりの温度が違うのだろう。


「ダメだよ、もうお母さん帰ってくる」

なのに、恵太はさっきよりも深いキスをする。塞がれた口から、言葉が出る事はなくて、言葉と呼ぶには不十分な声が微かに漏れるだけ。

恵太の温もりが、心を満たそうと流れ込んでくる。

この時間が幸せだって、信じてもいいのかな。

これからもずっと続くって思いたい。


だけど、時は無情。

車の音が聞こえてきて、私達は同時に終わりを感じてしまう。

「……恵太、」

ふっ飛びそうな意識の中、理性をかき集めた。恵太も分かっているはずなのに、私の言葉をわざと遮ろうとする。

「帰って、きたから」

バタン、と車のドアが閉まる音が耳に響いた。その瞬間、ようやく脳内の天秤は理性の方に大きく傾いた。慌てて恵太の胸元を押す。

唇が離れると、恵太はニヤリと笑った。

「いいところだったのに」


その後ろに、烏が鋭くこちらを睨んでいるのが見えた。今にも「バラしてやる」と言わんばかりの顔に、ゾクリと寒気がした。

< 3 / 30 >

この作品をシェア

pagetop