The World
○ 灰色
「お前、本当、俺の事好きだよなぁ」
そう言って、にやりと笑った。
消えていった笑い声と共に、直海の吐いた煙草の煙が、灰色の、曇り空に溶けていった。
今夜は雪が降りそうだ。ぼんやりそう思った。
眉を歪ませてみると、直海は今まで我慢していたかのように笑い出した。
「あはは、そんな顔すんなってば。冗談冗談」
「別に、何も言ってないでしょ」
ふて腐れた自分。嫌いな私。
分かっている。なのに、笑顔一つ向けられない。嫌いだ。
「怒んなって」
強く私の背中を叩く。まるで女の子にする仕打ちじゃない。ひどいものだ。
「美歌」
優しい声。低い声。
……甘い、声。
「美歌ってば」
私の体内が蒸発しそうな事も知らずに。
猫撫で声で次は「美歌ちゃん」と言うと、捨て犬のような目で、容赦なく顔を覗き込んでくる。
捕まった私の視線は、すぐに、吸い込まれないようにと道路を走る車へ移された。
一瞬で通りすぎた車は、私の目に焼け付くこともなく、ただ、目のやり場になっただけだった。
「うるさい、離れてよ」
そう吐き捨てると、こんな自分に、泣きたくなった。
「うわ、冷たいなぁ。傷付いちゃった」
……傷付けた?
いや、違う。
傷付けられたのは、私の方だ。
「謝って」
「何で」
「ヒドイ事言われたから」
私がぽつり「イヤ」と呟くと、直海は煙草を一息吸い、溜め息のようにそれを吐き出した。
「俺でも傷付くんだけど」
「……はいはい」
……嘘付き。そう心の中で呟いた。
「何でそんな適当なんだよ」
「ああ、そうですか。ごめんなさいね」
直海こそ、何でこんなにも、構ってくるんだよ。
もう、放っておいてくれればいいのに。