The World
○ 依存症
『薬、飲んだ?』
篭った声が温かくて、優しい。
「うん、さっき」
電話越しに、独り頷いてみる。
本当は飲んでいないのだけど。
テーブルの上には、散らばったスティクシュガーと、真っ白な錠剤。
それを一錠摘むと、砂糖も一緒にくっついてきた。
薄暗い月明かりに透けて、キラキラして、綺麗。
『霧弥』
俺の名前を呼ぶ彼女の声が遠退いて聞こえた。返事もせずに、煙草で口に塞ぐ。
黒い煙が肺を通って、身体にぐるぐると循環を始めた。俺を、蝕んでいく。
『今、何してるの?』
「……電話。あと、煙草吸ってる」
そっか、と小さく呟くと、彼女は一度口を噤んだ。
それから、
『来週、やっと会えるね』
声が残響して、じんじんと、頭が痛くなった。