The World
テーブルの上には、白い錠剤と、散らばったスティックシュガー。短くなった吸いかけの煙草と、それから、水。


薬を二錠飲んで、水を口へ含ませる。

だけど、何が変わるものか。


煙草を吸ったって、砂糖を口へ流し込んだって、薬を飲んだって。

同じだ。


髪を掻き毟ると、無性に泣きたくなって、情けなくなった。


不意に、玄関のチャイムの音が部屋へ鳴り響き、意識が急に現実へ戻される。

……怠い。

出ようか出まいか悩んでいるうちに、また一度しつこくチャイムが鳴った。仕様もなく、重い腰を上げる。



けど。

モニターに映っているのは、会いたくて、触れたくて仕方のない人で。
幻覚か、と笑いたくなり、その、笑う間もなく、足は玄関へ向けられていた。



「小夜、なんで……」

すかさずドアの内側へ入ると、彼女は悪戯っぽく笑った。

「今頃、泣いてるんじゃないかと思って」

ハイヒールを脱ぎ、驚く俺の前を通ってリビングへと進んでいく。
ふわりと彼女のシャンプーの香りがした。
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