孤高の天使
そして、神殿の奥…―――
ステンドグラスの光が落ちる祭壇に、一際まばゆい光を放つ球体がある。一段高い所にいるそれは、皆が“神”と信じているもの。神は神聖なものであり、皆の前には顔を出さないらしい。
神の隣にある左右2つずつの椅子に大天使たちが座る。
「静まりなさい」
ミカエルの声が神殿に大きく響き渡った。
「聖典を唱えます」
その声に皆が膝を折り、手を胸にあてて目を閉じる。そして、三人の大天使のもと朝の礼拝が始まった。
「目を開けても良いぞ」
ウリエルの声に導かれるように目を開ける天使たち。普段ならば朝の礼拝は終わりだが、帰ろうとした天使たちをミカエルが制した。
「本来ならばこれで朝の礼拝は終わりだが、今日は皆に重要な話がある」
何の感情も読めない面持ちで口を開いたミカエルは、眉ひとつ動かさず続けた。
「聖なる母樹の花が散り始めた」
ミカエルが持ち出した話に天使たちが一斉にざわついた。
天使たちの不安が煽られたのも無理ない。聖なる母樹とは人間界から天界までのあらゆる生命の源で、神の生命力そのものを指す。
そのため聖なる母樹の花が散る時は神の寿命が尽きる兆しといわれている。神と聖なる母樹は一体にして一体にあらずの関係なのだ。
神と聖なる母樹が消えれば、この世界の全ての命を脅かすことになる。
「落ちつけ」
ウリエルの凛とした声で皆の視線が祭壇前の大天使に集まる。
「神が消えれば我々も消える。そのような事態は避けなければならない」
「だから?」
ガブリエルが結論を求める。それに眉をピクリと動かしたミカエルだったが、小さく溜息を吐き答える。