孤高の天使
「ここ…どこ……?」
前と後ろ、右と左。
何処を見ても同じ廊下、同じ部屋が並ぶ光景に立ち尽くす。
部屋を出てからここまで、自分が今どこにいるのかを頭の中で描きながら来たつもりだったけど…
数分後、縦横に伸びる廊下と複雑に入り組んだ建物の構造に頭の中の画はすぐにバラバラになった。
もう…元いた場所にも戻れる自信はない。
カチャ…カチャ……
近くの扉のノブを傾けるも、どの部屋も鍵がかかっているのか扉は固く閉ざされている。
ラファエル様……
途方に暮れて再び歩き出した時だった。
「イヴ」
静寂に包まれた廊下に響く声。
バッと振り返るが、求めた人ではなく…
くせっ毛の漆黒の髪に、驚きに丸く象られたエメラルドグリーンの瞳。
「ルーカス…」
がっかりとした気持ちが声に表れ、曇った声でその者の名を呼ぶ。
ルーカスは私が涙を流しながら廊下を彷徨っていたことに驚いた様子。
それもそうだ、今まで付き人なしにあの部屋から出たことなんてなかったから。
けれど、涙の理由を聞かれては困るので言い訳を口にする。
「私迷っちゃって…」
「知ってる」
咄嗟に出た言葉に間髪入れずにそう言うルーカス。
知ってる……って、今会ったばかりなのに。
まるで今まで城の中を彷徨っていた事を知っているかのような口ぶりに、疑問符が浮かんだ。