孤高の天使
コンッコン……―――――
昼なのに月が浮かぶ空を眺めていれば、部屋の扉が静かに鳴る。
ルーカスでも双子の侍女たちのものでもないその音に「はい」と一言応えると…
キー…と扉がゆっくりと開いた。
入ってきたのは長い黒髪の悪魔。
4枚羽の悪魔は入るなり部屋を見渡し…
「おや?ルーカスの姿が見えませんね。ここだと思っていたのですが」
ワインレッドの瞳が少し驚き、おどけて見せる。
「アザエル様」
相変わらず神出鬼没な人…
フッと現れては闇に溶けるように消える。
「ルーカスなら急な命令で魔界北部へ行っています」
朝、この部屋に来て告げられた言葉をそのまま口にする。
「そうですか。あそこは魔界でも騒動の絶えない場所ですからね。双子の侍女はどうしました?」
「イリスとリリスは本家に帰る日だそうです」
イリスとリリスもルーカスと同じ悪魔貴族の一員。
普段は侍女として城に住まう彼女たちだが、月に何度か家に帰るのだ。
イリスとリリスもいないと分かったアザエルは溜息を吐きながら口を開く。
「そうですか…困りましたね」
折り曲げた人差し指を顎に当て眉を寄せるアザエル。