孤高の天使
夢と前世の記憶
神殿からの帰り道、イヴは階段の下に迎えに来ていたラバルと共に聖なる母樹に向かった。聖なる母樹があるのは天使が住まう居住区からは離れた所にある。
神殿を後にして、天使たちの居住区の上空を過ぎ、暫く飛ぶと開けた土地に出た。足元には薄い雲が張り、光の粒子は神殿ほど濃くはないがゆらりと風にのって流れている。
「ここに来るのはいつ振りかな」
地面に降り立ったイヴはぽつりとそうつぶやき、ゆうに数百メートルはあろうかというほど大きな樹からゆらゆらと舞い落ちる花びらをを見上げた。
樹といっても人間界のそれとは大きく違い、聖なる母樹には葉がない。樹につくのは常に開花している最天の花と枝についた花の蕾のみ。蕾にはまだ見ぬ天使が眠っている。
聖なる母樹から生まれてくる天使は前世で純粋なまま死に至った者で、神が選んだ憐れな魂だけが花の蕾にやどる。
花の蕾にやどった魂は母樹を通して神から聖力を分け与えられ、天使として生まれてくるのだ。天使が生まれ、花が開花した時に花びらが散ることはあれど、こうも断続的に花びらが散ることはない。
最天の花が散っているにしろ、尋常ではないことは誰の目にも明らかで、神の寿命が近いことを悟る。このまま次の神が決まることなく神の寿命が尽きれば、今なっている蕾も枯れ落ちてしまうだろう。
しかし、それをここで一人考えていてもどうしようもない。イヴは舞い散る花びらに見切りをつけ、ラバルに話しかける。
「ラバル、今日はちょっと遠くまで行ってみようか」
イヴの言葉にラバルは尻尾を振って喜び、鼻先を低くして器用にイヴをすくい上げ背に乗せた。
そして、ラバルは数歩地面を踏み空に駆け上り、聖なる母樹を過ぎ、更なる天界の外れに駆けて行った。