孤高の天使
「何故貴方がルシファー様の想い人ではないと言い切れるのです?」
「言い切れるわけではないですけど…私には記憶がないから……」
アザエルの問いに目を伏せながら答える。
どこか怒ったような声になったのは、自分自身にもどかしさを感じているから。
生まれた時から能力もなく、聖力もなく、生前の記憶までもがない。
もちろん、ラファエル様に繋がるものなんて何一つなくて…
それがとてももどかしい。
胸に巣食うこの気持ちは………
「ほう…それは不安ですね」
親身な言葉を寄せたアザエルにハッとする。
「ルシファー様の言う“イヴ”が本当に貴方なのか、はたまた貴方を通して“イヴ”を見ているのか」
アザエルの言う通りだった。
ラファエル様が私を“イヴ”と呼ぶたびに胸がツキンと痛んだ理由。
それは不安だったから……
ラファエル様が私を見ていないようで…
私を通して愛おしい“イヴ”を見ているようで…
目の前にいるのに、ラファエル様はとても遠くて、悲しかった。
それは、私とラファエル様に接点がないと思い知らされる程に積み重なっていって。
最初は私がラファエル様の言う“イヴ”なのかもしれないと思っていたけど。
ラファエル様が自分を悪魔だと言ったことで、淡い期待は脆くも崩れ去った。
だって…私には生前の記憶はないけれど、生まれてから今までの記憶はあるもの。
その記憶の中で、一度だってラファエル様がいたことはなかったし、悪魔との遭遇もなかったのだから…