孤高の天使
「ここまで来たら神様もわからないわ」
ラバルが向かった先は天界の中心地からかなり離れた場所だった。神の力が弱まる土地に行くというのにイヴは不思議と怖くはなかった。
むしろ、いつもじろじろと視線を寄越す天使たちも、厳しく見張るミカエルも、神でさえ力が及ばない土地だからか、開放感に思わず笑みがこぼれる。
頬を撫でる風と眼下の美しい天界を見ていると、これから起こるだろう大天使候補たちのいがみ合いを今だけは忘れられた。
イヴがそんな開放感に浸っていると、不意にラバルが降下していく。
「ラバル…?どうしたの?」
問いかけにも応えず、まっすぐに降りていくラバル。不思議に思ってラバルの背から身を乗り出して下を見てみると、眼下に湖が見えた。
ともすれば見失いそうなほど小さい湖に、ラバルは迷いなく降りていく。ずっと飛んでいたため一休みしたいのだろうと思ったイヴはラバルの好きなようにさせた。
ラバルはぐんぐんと降下して、地面につく一歩前でふわりと浮いてそっと地面に降りる。
ラバルから降りて改めて湖を見渡すと、思わず心が躍った。
「綺麗なところね」
天空の青が映し出される湖面には聖なる母樹から風に乗って飛んできた花びらが浮かび、太陽がつくりだすキラキラとした光が反射している。
人の手が加えられていない自然の美しさを目の当たりにして、暫く息をのんだまま見つめた。
しかし、何かが引っ掛かる。
(この場所…どこかで……)
もやもやと霞がかった記憶を手繰り寄せるようにして思い出そうとすると、ふとある光景が浮かんだ。