孤高の天使
「本当に?」
呆気にとられた表情で問えば、ラファエルはただ黙って頷いた。
まさかラファエルから私の記憶について話してくれるとは思わなかった。
「君は俺の愛するイヴだと知ってほしい。だが…正直なところ君に失われた記憶を明かすのは怖い」
綺麗な眉を寄せ、本音を吐露するラファエルの表情は辛そう。
「記憶を明かすと言うことは同時に君の心を傷つけることでもあるんだ」
「私が…傷つく…?」
私が天使として生まれ変わる前にどんなことがあったと言うのだろう。
ラファエルが言う、私の心に傷が残るほどの記憶とはどのようなものだろう。
いまいちピンとこず首を傾げる。
「本当に何も覚えていないのか?」
こちらの様子を窺いながら訝しげにそう言うラファエル。
「過去のことは全く。でも天界にいたころは毎日夢を見ていたんです」
「夢?」
少し驚いたような表情をしたラファエルにコクンと頷く。
これが私の過去と関係していることは分からないけれど、覚えがあるとしたらこの夢だけ。
「毎日私は花が生い茂る湖の畔に座って、誰かを待っていて。名前を呼ばれて振り返ったら誰もいなくて…夢はいつもそこで終わっていました」
私がポツリポツリと話すたびにラファエルは目を見開いてゆく。
それと同時に眉間のしわもますます険しくなった。