孤高の天使
「また…だわ………」
天使は起きるなり頬を流れる涙に何ら驚くことなく、そう呟いた。
涙が流れ続けるという不思議な現象に慣れてしまったのは、もはやこれが習慣化してしまったからか。
目を覚ませば目頭が熱くなるのはしょっちゅうで、時には寝ながら涙を流していることもある。
意図して涙が出るわけではないが、何故涙が溢れるのかは分かっていた。
それは毎夜見る夢のせいだ。しかも、それはいつも同じ夢だった。
その夢の中ではいつも、花々が生い茂る湖のほとりで少女がいつも誰かを待っている。
その場に座ってじっと待つ少女の顔はそわそわしながらも嬉しそうで、傍から見ても幸せそのものだ。
しかし、待ちに待ったその人が現れ少女が振り向いた瞬間、突然辺りは真っ暗になって、闇に飲まれる。
次に光が差し込むときはいつも夢が冷めた時だった。
視界が闇で歪む中、振り返った先には確かに誰かがいた。
「貴方は誰なの……?」
思い出そうとすると、頭の中に霞がかったようにもやもやとして、思いだそうとすればするほど遠くなる。
必死で記憶をたどるのに、いつも残るのは胸を締め付けられるような切なさと悲しみだけだ。
気付けば涙を流し、自分の石に反して流れる涙をただただ拭う事しか出来ない。
寝床から気だるそうに上半身を起こすと、聖獣が甘える様に鼻先を寄せ涙の残る頬を舐め取る。
大きな舌で器用に涙を舐め取る姿がいじらしく、悲しみと虚無感に浸っていた心が和らぐようだった。