孤高の天使
「きゃっ……」
「は!?お前誰か乗せていたのか?」
少年は心底驚いたような声を上げながら正面から駆け寄ってくる。
「お前が背に乗せるのは主だけだろ…ったく何を拾ってきたん…だ………」
頭をポリポリとかきながら近づいた少年。面倒くさそうな顔つきで歩み寄ってきた少年と目が合った瞬間、お互いが息を飲んで驚愕した。
「天使……?」
唖然とした表情でぽつりとつぶやいた少年。やはり、手足の長さ顔の造りからして大人の一歩手前の少年という感じを受けた。
くせっけのある漆黒の髪に、見開かれたエメラルドグリーンの瞳。そして背中には漆黒の二枚羽。
「悪魔……?」
イヴは本でしか見たことのないその名を呟く。この場から逃げろと頭の中で警鐘が鳴り響くが…。
「あぁそうだ。俺はルーカス。お前怪我はないか?」
「え?…は、はい」
あまりに親しげなルーカスの問いにイヴは面食らいながら返事をした。天使と対をなす悪魔は歴史上常に対峙してきており、神と魔王には深い溝があると認識していたのだが、本に書かれていたことは嘘だったのだろうか。
「お前名は?」
「イヴです」
暗い森の中スタスタとこちらへ歩み寄るルーカスに警戒を示しながら答える。
「そうか。イヴ、お前どうやってここに……」
きた…と続くはずだった言葉はルーカスの息を飲む音で途切れた。ルーカスは呆然とその場に立ち尽くし、目を見開く。
「ッ……羽が白い……?」
「そうよ?天使を見たことがないのなら知らないかもしれないけど天使の羽はみんな白なの」
「いやそれは知ってるんだけど、俺がいいたいのはそんなんじゃなくて…」
ほらと言って、イヴが折りたたんでいた羽を広げて見せる。すると、それまで穏やかだったルーカスの表情が一変する。