孤高の天使
別れの時―――――
静寂が支配し、月の光も届かない深い森の中。
ここは私が魔界に初めて降り立った場所“迷いの森”
その迷いの森でラファエルとルーカス、そしてラファエルに抱かれた私がひっそりと佇む。
天使を天界へ帰すなど皆の目に触れることなどあってはならない。
だから別れの時は私の正体を知るラファエルとルーカスだけでしめやかに迎えられた。
「ルーカス、イヴを頼む」
「はい」
シンとした森の中にラファエルとルーカスの声が響く。
聖力が弱まり、飛ぶことはおろか歩くことすらままならなくなった私をルーカスが天界へ連れて行ってくれることになった。
正確には人間界と天界の狭間まで……
だからラファエル様とはここでお別れ。
また会えると分かっているのに別れるのはやっぱり寂しくて、ラファエルの胸に添えていた手でキュッと衣服を掴んだ。
また魔界に帰ってこられるのはいつだろう。
戻ってきたとしても私の聖力ではすぐに天界に逆戻りなのではないか。
そんな考えがぐるぐると頭の中に巡っていると「イヴ」と優しい声に呼ばれる。
掴んだ手から不安が伝わったのか、私を見下ろすラファエルの表情も少し曇っていた。
「魔界を出るまでは俺が見守っている。人間界には君を脅かすものもないし、ルーカスもいる。だから…」
ギュッ…―――
続く言葉は、私がラファエルに抱き着いたことで途切れた。