孤高の天使
「四枚羽の…天使……ッ」
「え……」
エメラルドグリーンの瞳がカッと開かれたかと思うと、睨むような瞳に変わった。ギリッ…と噛みしめた口元から除く牙。
憎しみの込められた視線に、思わず体がすくんだ。先ほど見せた親しげな雰囲気など嘘のような変貌ぶりに言葉が出なかった。唖然とするイヴに一気に距離を詰めるルーカス。
「よくも………」
低く唸るような声と、赤く染まったエメラルドグリーンの瞳。伸びてくる手にビクリと体を震わせたイヴは来る衝撃に目を瞑った。
しかし、伸びてきているはずの手は一向にイヴを捉えず、代わりに聞こえてきたのは、何かに払われるような音だった。恐る恐る目を開けると視界いっぱいに漆黒の毛並みが目に入る。
「フェンリルッ!邪魔するなッ!」
恐怖に身をすくませていたイヴを助けてくれたのは、フェンリルだった。
「お前どっちの味方なんだよ!そいつは四枚羽の天使だぞ!」
ルーカスの問いにただ黙って見下ろすフェンリル。無言の圧力にたじろぐルーカス。そして、グッと何かに耐える様子を見せたかと思えば、言葉にならない奇声を発した。
「ッ~~~っかった。四枚羽の天使はルシファー様のところへ連れて行く。それでいいだろッ!」
半ばキレ気味にルーカスがそういうと、イヴとルーカスの間にあったフェンリルの尻尾が退けられる。
ルーカスとの間に何の障害もなくなったことでイヴはおろおろと所在なさげに視線を泳がせる。先ほどの冷たいエメラルドグリーンの瞳が脳裏にチラつき、思わずフェンリルの尻尾を掴む。
「もう何もしねーよ」
ぶっきらぼうにそう言い放つルーカス。
「お前もなに触れさせてんだよ。俺らが触るのも嫌がる癖に」
チッと面白くなさそうに悪態をつき、くるりと反転すると、ふわっとところどころ破れた黒いマントが揺れた。