孤高の天使
鏡が映しだす先はどんどん石畳の廊下を進んでいく。
淡い灯りが一定間隔に灯されていることに、まさか…と思う。
しかし、そのまさかは的中することになった。
廊下を進んだ先――――
ある扉の前で立ちすくむ者の姿を認めた瞬間、息を飲むほど驚いた。
「ッ……!」
石畳の廊下を進む鏡の中に映し出されたのは二枚羽の悪魔。
後ろ姿は小さく、まだ少年の様な背格好をした悪魔の横顔を鏡が映したのは…
ルーカス!
それは紛れもなく先ほどまで一緒にいたルーカス本人だった。
しかし、何か様子がおかしい。
いつも不機嫌ながら温かみの感じるエメラルドグリーンの瞳はくすんでいて。
俯き加減で扉の前に佇み、何を見ているわけでもないその瞳は虚ろだった。
「ルーカスッ!」
「無駄です。こちらの声は聞こえませんよ」
これはアメリアが使っていた鏡の様なものなのだろうか。
アザエルの言う通り、叫んでもこちらの声は一切届いていない様でルーカスはピクリとも動かない。
けれど、あれは確かにルーカスのようだし…
どうしたのだろうか…と思っていると――――
「ルーカス」
隣に立つアザエルがルーカスに向かって囁きかける。
正確には、囁かれたのは頭の中。
耳元で囁かれたかのようなそれは人を惑わせる媚薬のように理性を攫われる響きだった。