孤高の天使
その声にピクリと反応するルーカス。
俯き加減だった顔を持ち上げ、目の前の扉を見つめている。
しかし、その瞳はやはり虚ろで、瞬き一つさえしない。
「ルーカス、先ほど言った通りに。分かりますね?」
ルーカスはアザエルが笑みを浮かべて囁いた言葉にただコクンと頷いた。
そして…―――――
コンコン……
ルーカスはゆっくりと重厚な造りの扉を叩いた。
アザエルは愉しげに、私は訝しげに鏡の中の様子を見つめる。
石畳の廊下と二枚羽の悪魔がルーカスだと分かっていた時から、鏡の中の世界は魔界だとは思っていたけど、その扉の向こうにいる者の存在など知るはずもなく。
『入れ』
ドキッ――――
部屋の中から聞こえた声に心臓が跳ねる。
それは紛れもなく愛おしい人の声。
耳になじむその声を聞き間違えるはずがない。
キィー……
ルーカスが開いた扉の先には声だけで頭に浮かんだその人がいた。