孤高の天使



今にも襲い掛かりそうな状況の中、普段のルーカスなら圧倒的な力と尊敬の対象に牙を向けられたことで顔面蒼白だろう。




しかし――――


『嘘ではありません』


ルーカスは尚も哀しみの表情を崩さずに告げた。

ラファエルの眉間のしわが深くなり、噛みしめる力が強くなろうと、ルーカスは止まらなかった。




『人間界を抜け、天界の門に着いたとき何故か武装した天使が待ち構えていました』


何を言っているのルーカス。

私たちは天界にたどり着く前に襲われたんじゃない。

武装した天使ではなく、ラファエル様を裏切ったアザエル様に。

混乱するも、鏡の向こうのルーカスに迷いなどなくさもそれが本当にあった出来事だと言わんばかりに話す。




『イヴを迎えに来ていたと思って近づいたら…一瞬で囲まれて俺たちは襲われて。不意を突かれたのと天界だったので分が悪く、俺はあっという間に地面に押し倒されました』


作り話が進むほどにラファエルの表情は硬くなり、アザエルは愉しそうに顔を歪めた。




『抑えられ拘束された俺を助けようと駆け寄ってきたイヴを天使たちは…』


ルーカスは眉を寄せて押し黙る。

すると、俯いたラファエルが静かに口を開いた。




『イヴは短剣で刺されたのだな』

『ッ…何故それを……』


驚くルーカス。

恐らく驚いている“ふり”なのだろうが。

けれど、ラファエルの言葉には私も驚いた。

だって、さもその場面を見ていたかのような台詞だったから。



ルーカスの作り話のはずなのに何故……



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