孤高の天使
「フェンリル、そいつを連れてこい」
フェンリルは羽に牙を突き立てないよう加減をしながらイヴの四枚羽を咥えて立たせる。そしてフェンリルが地面に躰を伏せてこちらを振り向く。“乗れ”と言っているようだった。
イヴはふらふらとした足取りで漆黒の毛並みをつかみ、フェンリルの背に乗る。ゆっくりと立ち上がったその上はやはりラバルよりも高かった。
「おい、良く聞けよ、四枚羽の天使」
呼び方がイヴから四枚羽の天使になり、態度を急変させるルーカス。
「お前を城へ連れて行く。そこで我らが王ルシファー様に…ってオイッ!フェンリルッ!!」
先ほどまで同じ目線で話していたが、ルーカスの怒ったような叫び声が下から聞こえる。ルーカスの言葉が終わらぬうちにフェンリルが飛び立ったためだ。
ルーカスはフェンリルよりも速く飛べないのか距離は一気にひらいた。
「くっそ~~覚えてろよフェンリル~~」と、ルーカスの悔しそうな声が森に木霊する。
イヴはフェンリルの背の上で先ほどルーカスが言いかけた言葉を思い出す。
“城”“ルシファー”
この先待ち受けているものが容易に予測できたイヴはフェンリルが連れて行く先に行きたくないと思った。
しかし、想いに反して体はいうことを聞かない。また濃い粒子が立ち込めた空を走っているからだろうか。
ゆらゆらと揺れるフェンリルの背の上で、疲れ切っていたイヴはいつの間にか意識を手放していた。