孤高の天使
鏡越しにもその部屋の空気が震え、窓がガタガタと震えるのが分かった。
パリ、パリ…と厚い窓が悲鳴を上げ、ラファエルを囲むようにして立ち込める闇が濃くなるほどに窓の表面に亀裂が入る。
尋常ではないその光景に何故か焦りが生まれ、このままではいけないと直感がそう思わせた時には叫んでいた。
「ラファエル様ッ!」
大きな声で名を呼ぶが、その声はこの静寂しきった世界に木霊しただけ。
鏡の向こうのラファエルは傍で控えるルーカスなど視界に入ってもいないかのように窓の外を見上げる。
その先に薄雲に覆われている蒼い月が在った。
否、ラファエルは蒼い月の向こうにある天界を見上げているのだろう。
睨むように眉を寄せ、ギリッと噛みしめた瞬間。
バリッ――――
大きな音を立てて窓が粉々に砕け散った。
そしてラファエルは六枚羽を広げて蒼い月の光が照らす薄暗い窓の外に飛び立った。
向かう先など天界のほかない。
来てはだめ、罠だから…と伝えたくとも声が届かないことは嫌でも分かっていたため唇を噛みしめてその光景を鏡越しに見た。
「これだけでは足りませんか。だが、面白くなってきました」
横でククッと愉しそうに笑うアザエル。
キッと睨めば、一層歪むその笑顔。
「ルーカスもよくやってくれました」
引っ掛かりのある物言いに、今一度アザエルの言葉を頭の中で反復する。