孤高の天使
そして、ハッと息を飲んで気づいた。
「ルーカスを操っていたのは貴方だったのですね」
「いかにも。私の能力は未来を予見することなどではなく、暗示…一種のマインドコントロールの様なものです」
もしかしたらと思っていた事は見事に当たった。
ずっとアザエルの能力は予知だという先入観があったため気づくのが遅れたが、思えば一度もその能力が発揮されたところを見ていない。
私が魔界へ来たばかりの頃、私を“魔界を滅ぼす天使”と予知したが、これはアザエルの計画通りだったことだ。
暗示も結局のところ実行してしまえば予知と同じこと。
アザエルは暗示を実行することで予言者としての地位を確立してきたのだろう。
けれど、目の前でルーカスが変わる様を目の当たりにして気づいたのだ。
尋常ではなかったルーカスの言動は普段の彼のそれとは明らかに違っていたから。
「何故ルーカスを操ってあんなことをしたのですか?」
「私があの場で報告したのでは面白みがないでしょう」
「そうじゃないです」
肩をすくませながら返ってきた見当違いの言葉にすかさず声を上げる。
「私が聞きたいのはルーカスを操ってまであんなことを言わせた理由です」
するとアザエルは口角を上げて歪んだ笑みを浮かべた。
そんなことは決まっています…と小さく呟かれた言葉に続き口を開く。
「あの方に滅ぼしてもらいたいからですよ。天界も魔界も全て」
その顔には先ほど浮かべた笑みなどなく、ただ感情もなく告げられた。
いつも笑みを絶やさないアザエルから表情が消えた瞬間だった。