孤高の天使
私を見下ろすワインレッドの瞳は澱み、目が細められる。
その瞳はどこか闇を湛えていて、ただ単に自身の愉悦の為にのみ事に及んだわけではなさそうだ。
“世界を征服する”というアザエルの言葉は冗談ではなかったのだろうか。
けど、何故アザエルは世界を征服したいのか。
しかも天界だけでなく、自身が住まう魔界と何の関係もない人間界までを。
そしてその目的の為に何故ラファエルが必要なのか。
意図が分からないからこそ漠然とした不安が襲い、ゾクリと震えが起こった。
しかし、アザエルが無表情で冷ややかな視線を寄越したのは一瞬。
すぐにいつものあの笑みを浮かべた。
「ラファエル様を操るつもりですか?」
ゴクリと緊張で喉を鳴らして聞けば、アザエルは声を上げて笑った。
「そんなことが出来るのなら遠の昔に全てを滅ぼしていましたよ」
馬鹿にしたような笑いで物騒な事を口にするアザエル。
「私の能力を以てしてもあの方を操ることは出来ません」
「じゃぁどうやって……」
アザエルはフッと笑い、白く細長い指で私の顎を掴む。
「だからこその“イヴ”なんですよ」
含みのある愉しそうな声で告げられた言葉の意味が分からなかった。
先ほども神とラファエルを滅するには私の力が必要だと言っていた。
けれど、私の聖力はないも等しいのはアザエルにも分かっているはず。