孤高の天使
瞬間、地面に足をつけていながら、ぐんっと引っ張られる感覚が襲った。
周りの風景は歪み、目で追えないスピードでぐるぐると私たちの周りを回る。
体が浮く感覚に多少気持ちの悪さを覚えたが、空間転移をしたときに比べればまだましであるそれに耐える。
そして、ふわりと浮いた足が再び地面に着いた瞬間、湖と樹以外に何もなかった場所に私たちを中心として世界が現れた。
パァ…―――――
光の粒子が舞い、キラキラと美しい世界。
眼下には淡いクリーム色の雲と、長い長い階段。
その頂点には茨が絡みついた鉄格子の門。
少女に連れられてやってきたのは“天界”だった―――
天界へ帰ってこれたの…?
あれほど焦がれた懐かしい場所だが何故か実感がわかない。
少女と私は神殿正門前のちょうど真上から居住区へ繋がる長い階段を見下ろす。
羽を使うことなく浮いていられるのは何故だろうかと不思議に思っていると少女が心配そうに私を見上げた。
「イヴ、体は大丈夫ですか?」
「はい」
空間転移にしては体に負担はなかった。
「それよりここは……」
言いかけたところで神殿の正門がキィー…と音を立てて開き、視線が下へ向く。
神殿の方から正門を出てきたのは四枚羽の天使だった。
おそらく神殿での朝の礼拝が終わって戻ってきたのだろう。
一番に出てきたその天使は飛ぶことはせずに金色の髪を風になびかせながら小走りで階段まで駆けてきた。