孤高の天使
「ここは私と貴方の記憶の中。そしてあの二人は過去の貴方とラファエルです」
やはりここに来た時の衝撃は空間転移の衝撃ではなく、私の記憶に少女が干渉した副作用のものだったのだ。
過去を見せるとは、これも神の成しえる業なのだろうか。
私は少女の顔を見つめて何も言わず、視線をまた二人に戻した。
『朝の祈りは終わったのか?』
『はい!』
ラファエル様…あんな笑い方をするんだ。
イヴを抱き上げながら微笑んだその表情はとても暖かく、魔界で見せたそれとは少し違う。
幸せに満ちていて、安らぎの表情をしている。
微笑みかけられたイヴもまたラファエルに負けず劣らずキラキラした笑顔を零して応える。
『ラファエル様がまたお休みになるからミカエル様が怒っていましたよ?』
『俺に祈りなど必要ない』
クスクスと笑うイヴにラファエルはムスっとした顔をして答えた。
そして、困った顔をして笑うイヴを片腕で抱き上げる。
『またそんなこと言って』
イヴは眉尻を下げて笑い、ラファエルの漆黒の髪を撫でた。
「ラファエル様は天使なのですか?」
「ラファエルは元はと言えば天使です。しかも計り知れぬ力を持った大天使」
階段を下りていく二人の背中を見つめながら少女に問えば、硬い口調で答えが返ってくる。
「けど…ラファエル様は悪魔だって……」
「ラファエルがそう言ったのですか?」
少し驚いた表情をした少女の目を見ながら頷く。
すると少女は悲しそうな色を瞳に湛えて溜息を吐いた。