孤高の天使
「そんなに悲しい顔をして笑わないでください。見ているこちらが悲しくなります」
そう言って微笑んだイヴにルシファーは目を見開き、再び手で顔を覆った。
「やっぱり“君”には敵わないな」
ぼそっと呟いたルシファーは自嘲気味に笑ったが、小さく零した笑みは至極幸せそうだった。不意にルシファーが屈む。突然至近距離にきたルシファーの顔にイヴはもれそうになった声を飲み込んだ。至近距離で見るルシファーの顔立ちはやはり整っており、息を飲むほどに美しい。
「イヴ」
「は、はい」
突然目を開いたルシファーにイヴは思わず返事をしてしまった。
「愛してる」
吐息のようなな甘い言葉が耳を掠めたかと思えば、イヴの唇が塞がった。イヴは一瞬何が起こったか分からず、ルシファーが離れても暫く動けないでいた。
「こ、こんなことされては困ります。私はあなたの想い人のイヴじゃないんですから」
「俺が他でもない君を間違えるはずはないんだがな」
ルシファーはぼそりとそう呟いて小さく笑った。何故断言することができるのかイヴには理解できなかった。
「ラファエル」
不意にルシファーが呟いた名にイヴは首を傾げる。
「俺の名だ」
「ラファエル?貴方はルシファーでしょう?」
「俺はルシファーでもあるが、ラファエルでもある」
ルシファーでもあり、ラファエルでもあるとはどういうことか。イヴが難しい顔をして黙り込んでいるとルシファーの表情がフッと緩む。
「ルシファーというのは魔王に与えられる称号にすぎない。俺の名はラファエルだ」
「ラファエル…様……?」
記憶するようにゆっくりとその名を口にする。
「そうだ。何か思い出したか?」
期待に満ちたラファエルの声にイヴは申し訳ないと思いながらも首を横に振った。
「そうか…」
哀しみの色を瞳にのせ呟いたラファエルの横顔は落胆に満ちる。
「だがこれで良かったのかもしれない。あんな記憶思い出さなくていい」
明らかに傷ついていながらも笑みを作るラファエルにイヴは何故か胸が痛んだ。