孤高の天使
『許さない……』
地を這う様な低い声はもう目の前の天使を映していない。
いつしか辺りは薄暗くなり、ポツポツと黒い雨が降っていた。
ラファエルの頬には黒い雨に混じり、涙が流れる。
その体は闇を纏い、光の粒子を侵食していくように広がる。
操られていても苦しいのだろう、天使はラファエルの手の中でもがく。
ラファエルは何を思ったのかフッと天使の首を掴む力を緩めた。
解放された天使はゼイゼイと息を吐き、苦しそうに喉を抑えながら後ずさる。
そしてラファエルが手を離したのをいいことに、天使はラファエルの横をすり抜け駆けだす。
天使が駆け出した先には魔剣があった。
恐らく証拠を持ち帰るためだろう。
操られるがままの天使はラファエルの放つ闇の粒子に苦しみながらも走った。
しかし次の瞬間――――
ラファエルからブワッと一陣の強い風が吹く。
それは地面の草木を揺らし、静かな湖面を波立たせた。
風が過ぎ去った後の湖には静寂が訪れ、一切の音が止んだ。
例えるならそう…真空の空間にいるような静けさ。
その空間にドクンと心臓が躍動するような空気の振動を感じたかと思えば、ラファエルを中心として濃密な闇が球体状に広がった。
その大きさは縦横で半径数百メートルはあろうかというくらい大きく、私たちが立っている場所はあっという間に闇に飲み込まれた。
当然ラファエルになぎ倒された三人の天使と魔剣を回収しようとした天使もだ。