孤高の天使
「ありがとう、ラバル」
ようやく見せた笑みにラバルは嬉しそうに一声上げ、頬にすり寄ってきた。
「私は大丈夫。だけど何で涙が流れるんだろうね」
天使として生まれてからずっと同じ夢ばかりを見続けてきた。
目を覚ました時に感じる悲しみと虚無感には慣れたが、こうも同じ夢を見ていれば気にもなる。
あの湖はどこで、少女に呼びかけたのは誰か。そして、何故夢を見るたびに涙を流すのか。
色々な疑問はあるものの、夢の終わりはいつも突然で、いくら疑問を投げかけようと当然ながら答えは分からない。
そんなことを寝起きの頭で考えながら頬に残った涙を拭いていると、突如ぐらりと家が揺れた。
「きゃっ…!」
家を落とさんばかりの勢いで揺らしたのはいうまでもなくラバルだ。
叱ろうと口を開きかけたが、燦々と差し込む朝日を見てラバルがとった行動の意味を理解した。
「いけない…もうこんな時間だったのね」
慌ててくしゃくしゃだった髪を手櫛で整えながら立ち上がると、ラバルが急かすように服の端を引っ張る。
「今行くわ」
そういってゆうに5メートルはあるラバルの背に飛び乗り、滑らかな毛並みに掴まる。
「いつもありがとう、ラバル。お願いね」
ラバルはその合図を待っていたかのように一声上げ、ゆっくりと地面を離れる。
そして、迷いなく方向を定めて飛翔していった。