孤高の天使



「私のもう一つの能力は“空間転移”。触れたものを好きな場所、タイミングで別の空間へ移動させることが出来るのです」


つまりは事前に触れていたあの四枚羽の天使を、指を鳴らしたタイミングでこの場に空間転移させたということだろう。



「私をあの結界の中に送った時もその能力を使ったんですね」

「いいえ、貴方にこの能力を使ってしまうと壊れてしまう可能性がありますからね。あの時は他の悪魔から分けていただいた魔力をもって空間転移をさせました」


アザエルは以前アメリアさんが私を城下から闇の滝へと空間転移させた時の様に数人の悪魔を媒体として魔力を吸収したのだ。

アザエルの笑みから“分けた”というよりか“奪い取った”という方が正しいような気がするが。

しかしアザエルの能力を使って空間転移させると私が壊れてしまうとはどういう事だろうか。

私の訝しげな表情を読み取ったアザエルが口を開く。




「自分以外を空間転移させるためには対象の身体に印を結ぶ必要があるのですが、それが少々面倒でね。印自体が強力な力を持っているので耐えられる者も少ないんです」


アザエルはおもむろに四枚羽の天使に囚われたルーカスに近づき、その肩に触れる。




「カハッ…!」


触れた力はそう強くなかったはずだが、ルーカスは苦悶の表情を浮かべて仰け反った。

アザエルは四枚羽の天使にも触れ、距離を取ったところで再び指をパチンと鳴らす。

すると瞬きをする間もなく目の前から二人が消え、先ほど二人がいた場所から少し後方に印が浮かぶ。

そしてその印の上に空間転移したルーカスと四枚羽の天使が現れた。




「クッ…ハッ…ぁ…ハァ…」


ルーカスは現れたなり咳き込み、苦しそうに呼吸を繰り返す。

本来ならば空間転移した際の衝撃はほぼなく、呼吸は苦しくなるものの暫くすれば落ち着く。

私でさえ眩暈が治まれば自然と呼吸も落ち着くのにルーカスはアザエルが触れた肩に手をあてて苦悶の表情を浮かべていた。



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