孤高の天使
「ルシファー様?」
返ってこない反応にルーカスが訝しげな声を上げてもう一度呼ぶ。すると、しばらくの沈黙の後に不服そうな声が返ってきた。
「……入れ」
「失礼します」
ルーカスに続き部屋に足を踏み入れる。
「げ……」
入った途端、何かまずいものを見たような声を上げるルーカス。何事かとルーカスの肩越しに中を見ると、その先にはラファエルと長い銀髪が印象的な男とその男に寄り添うようにして少女が立っていた。
「ほう…これが“イヴ”か」
「この方がルシファー様の想い人?ハデス様」
「あぁ、そうみたいだな」
少女のキラキラとした瞳に見上げられたハデスと呼ばれた男が答える。
ルーカスの陰に隠れたまま様子を窺っていると、少女がトコトコとかけてくる。そしてすぐそばまで来たかと思えば、澄んだ空色の瞳で見つめられる。
「ルシファー様の御心を捉えている方だけあってとても綺麗な方」
無邪気な太陽のような笑顔でそういわれ、イヴは恥ずかしくて居た堪れなくなった。
「イヴ様は天界から堕ちてきたの?」
「あぁ、フェンリルが拾った」
ルーカスと少女は顔見知りなのか親しげに話す。
「じゃぁやっぱり天使なのね!ハデス様、イヴ様はやっぱり天使だったんですよ」
「まだこれがイヴだと決まったわけじゃない」
ハデスと少女はまるでイヴのことを前から知っているような口ぶりだ。ラファエルにしろハデスにしろ何故前から知っているかのように言うのか。
「あの…天界でお会いしましたか?」
「まさか。君と俺は一度も会ったことはないよ」
唯一の可能性も笑って否定される。
「知りたいみたいだな」
ますます疑問を深めたイヴににハデスは妖艶に笑う。何も映していないようなグレーの瞳がイヴの恐怖を煽ったと分かるや否や、ラファエルはハデスに嫌悪の色を示す。