孤高の天使
最終章 愛してる
天界の外れ――――
神殿から遥か遠くにあるこの場所には天界よりも更に上、最天まで伸びる大きな樹がある。
上から見た大樹は淡いピンク色の花弁の蕾をつけ、ところどころに大輪の花を咲かせていた。
大きく膨らんだ蕾にまだ見ぬ天使を思い浮かべ、微笑ましく思いながら大樹の根元めがけて降下する。
ここ数年で更に大きくなった銀色の聖獣の背を折り、大樹の幹に近づく。
そして、大きな幹に手をあて、視線を持ち上げて微笑んだ。
「また来ちゃった」
語りかけて応えてくれるわけでもないのに、ここに来ると決まってこう投げかけてしまう。
だって、語りかけたその人は今にも目を覚ましそうなほど穏やかに眠っていて、呼びかけたら応えてくれそうだから。
「ラファエル様」
呼びかけた人、ラファエルは聖なる母樹に背を預け、アメジストの瞳を包む瞼は固く閉じられていた。
ラファエルが永い眠りについてもう10年の月日が経つ。
10年前の今日、ラファエルが瀕死の状態でこの聖なる母樹に運ばれた時はどうなることかと思ったが、ラファエルは無事聖なる母樹と同調することが出来た。
聖なる母樹はラファエルを迎え入れ、樹の幹に背を預けたラファエルの体に弦で巻き取り、聖力を注いだのだ。
けれど、それは永い眠りの始まりにすぎず、10年が経った今でもラファエルは目覚める気配はない。
神の話によると天使を殺めたラファエルは悪魔だが、ラファエルを生かしているのは聖力だという。
魔力は負の感情の塊に過ぎず、ラファエルはその負の感情によって聖力を魔力に変えていたらしい。
だから聖なる母樹にラファエルを預けることは“賭け”だった。