孤高の天使


短く切りそろえられた赤い髪とさばさばとした物言いに、つい男と見間違いそうになるが、ウリエルは女性の天使だ。

ウリエルは四枚羽に見合った聖力を持ち、上位天使の更に上、大天使の地位に就く唯一の女天使だった。

大天使の地位に就きながら気さくで、圧倒的な人気を誇るウリエルのファンは少なくない。



「さっきそこでラバルとすれ違ったが、今日も飛ばずに来たのか?」

「あ…はい。遅刻しそうだったので…」

「そうか。だが、この階段を足で登るのは少し酷ではないか?」

「そうですね。疲れたら飛びます」

イヴは小さな声でそう答えながら、周りの視線を気にしていた。

ウリエルは下位天使でも分け隔てなく接するが、特にイヴを気にかけている節がある。

人一倍正義感の強いウリエルのことだ。はぐれ者のイヴを気にかけての行動だが、本人としては有難迷惑なところもある。



「このままでは遅刻するぞ。私が連れて行ってやろうか?」

良い考えだとばかりにそう切り出したウリエルに周囲が一気に騒めく。

ウリエルの申し出は嬉しいが、それを受け入れたら最後、この先暫くは皆からの風当たりが強くなること必至だった。



「どうぞ先に行ってください。私を連れて飛んでいては遅くなりますから。ウリエル様まで遅れては皆に示しがつきません」

「まぁ、それもそうだな。遅れたらアイツが煩いしな」

ウリエルは少し考えた後、イヴの頭に手を置く。



「では神殿で待っているぞ。礼拝に遅れるなよ」

整った顔がかたどる笑みとポンポンと叩かれた頭に一瞬反応が遅れるイヴ。

天然フェロモンにあてられたのはイヴだけではなく、いつの間にやら集まった天使たちも同様だった。

それを知ってか知らずか、ウリエルはフッと小さく笑って神殿へ飛び立った。

四枚羽を広げ青い空へ飛び立つさまはいつ見ても圧巻だ。

皆が暫しウリエルの飛び立つ様をぼうっと見つめていたが、我に返るタイミングも同じだった。

先程陰口をたたいていた天使たちは憧れの存在を前に浮かれていた顔から一転、「何見てるのよ」という難癖にも近い台詞を吐き、神殿へ飛んでいった。




「はぁ…」

ウリエルを追いかけるように天使たちが神殿へ飛び立ち、静寂に包まれる中、イヴの深い溜息が大きく響いた。


< 6 / 431 >

この作品をシェア

pagetop