孤高の天使
「ラ、ラナっ!」
これにはさすがに驚いたイヴは慌てて指差すラナの腕を掴んで下ろすが、既に遅かった。
「俺が何だって?」
さっきまで数メートル離れていた筈が、ズイッと距離を詰めた天使。これが普通の天使ならまだいい。
けれどラナはとんでもない相手に喧嘩を売った。ラナが指差した天使それは……大天使“ガブリエル”
長い銀髪にアイスブルーの瞳。皆は勝手にクールな印象を抱きがちだが、何事にも無関心で無気力。飄々とした性格で掴みどころのない人物だ。
神への信仰にもあまり熱心ではなく、今日のように朝の礼拝に遅れてくる事が多々ある。それを目ざとく見つけては非難するのがラナだった。
「大天使様がこんな時間にお越しなんて、珍しいなぁ~と思っただけですわ。ミカエル様とウリエル様はもう神殿でお待ちですのに」
ニコニコと笑顔を表面に張り付けながらも、厭味を含ませた言葉を向けるラナ。見ているこちらはヒヤヒヤものだ。
「そんなことか」
当の本人ガブリエルは、面白くなさそうに溜息を吐く。
「悔しかったら、まずは上位天使になるんだな」
「大きなお世話よ」
口角を上げてフッと笑うガブリエルに、ラナがそう言ってそっぽを向いた。
「まぁお前ごときが上位天使になれるはずもないがな」
「何ですって!?」
弾かれた様に振り返るラナに、危険信号が鳴る。顔は笑っていても、冷たい空気を纏うラナ。
「ラナ落ちついて」
今にも飛びかかりそうな雰囲気のラナを宥める。ガブリエルも何故かラナの神経を逆なでするようなことばかり言うのだ。
ラナもラナで己が信じる者のみを敬うため、その対象にあたらないガブリエルには容赦ない。
無関心でいるならラナの発言も見逃してくれればいいのだが、顔を合わせればいつも一色触発の状態になる。