孤高の天使
しかし、不思議なことにガブリエルはラナを裁く気はないらしい。
ラナをからかって遊んでいるのか、毎度毎度同じような事で小競り合いを起こさないで欲しいものだ。
只でさえ目立つ人達だというのに、今やを囲んで人だかりが出来ている。だが一旦火のついたラナを止めるのは至難の業。
この事態を収拾させるにはどうしたものかと考えていると、突如声が割って入る。
「ガブリエル」
ただの一声だけだったが、ガヤガヤと煩かった場がシンと静まる。ガブリエルは声が聞こえた方を向くと、あからさまに嫌そうな顔をした。
「何の用だ、ミカエル」
「何の用だ…ではない。朝の礼拝の時間を遅らせる気か。お前は本来ならば、朝の礼拝が始まる前に神殿へ来なければならないはずだが?」
「そうだったか?」
ガブリエルは何食わぬ顔で惚ける。その態度にミカエルの眉間の皺がますます寄った。
苛立ちの含まれた溜息を吐くミカエルの後ろから、ウリエルが現れ、イヴの方を見てこっそり手を振る。
応えないわけにはいかないイヴは小さく会釈するが、目ざといミカエルはすかさず鋭い視線を向け、イヴは姿勢を正した。
冷ややかな印象を受けるグレーの瞳は細められ、無言は圧力となってのしかかる。
ミカエルはイヴを一瞥した後、ガブリエルに向き直り、本格的に説教を始めた。
「朝の礼拝に遅れてくるどころか、中位天使と低レベルな言い争いをするなどいい笑いものだ」
自らに厳しく、他人にも厳しい。神に最も忠実で、最も神に近い存在だと言われている。それが大天使ミカエルだ。
「そもそも、何故止めないのだ…イヴ」
そして何故かイヴに特別厳しい。