有明先生と瑞穂さん
「布津君」

話し掛けられて思わずドキリとする。

何か言われてもうまく返せる自信がないからだ。


しかし深江の口から出たのは布津が予想するものではなかった。



「前言い掛けてやめた話・・・
結がなんで布津君につきまとうか知りたい?」


「え・・・・・・」



知りたい。

でも、


「なんで今そんな話・・・」



自分が落ち込んでいることをごまかすため?



「関係あるからよ」



また、いつもの作り笑いでにっこり笑う。


どうしてだろう。
今は無性に深江の本当の笑顔が見たい。


こいつは作り笑いが下手だ。


本当に笑っている時と違いすぎるんだ。




深江は体ごと布津の方を向いて深呼吸して話しだした。



「あのね・・・」


「結!」



「!」



唐突に背後から知らない声が深江の名を呼んだ。


布津が振り向けば、知らない男がすごく驚いた顔をして立っていた。



深江を見ると、こっちもまた驚いた顔。



(・・・・・・誰だ?)



一瞬にして間にいた布津という存在は消えてしまったように、二人はただひたすら驚いていた。




「あ・・・あき、あきら!」


「ははっ、結!久しぶり!」



深江は口元を手で覆う。

さっきまでの暗い表情はどこかへ飛んで、目尻に涙。


悲しみじゃない、喜びの涙だ。



深江の作り笑いは一瞬で崩された。
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