有明先生と瑞穂さん
――彼を断ったあの日、「友達になってくれ」と言った。


携帯の番号を交換するわけでもないし、遊ぶ約束をしたわけでもない。


「俺のことを知ってるわけじゃないし、ダメ元だったんだ」

と笑いながら言った。


「俺を知っておいてほしかったんだ。
だから・・・お友達。
ダメかな?」



――終わりじゃなかった。


(断っても、そこから始まる関係もあったよ)


きっと言葉だけで、そこからその先輩と親密になることはないだろう。

通りすがりにこうやって目を合わせるくらい。


それだとしてもお互いに救われたのだと深江は思う。



(布津君・・・。先輩とも亮とも、終わりじゃなかったよ)



昨日の夜はそんな先輩の言葉でさえ『傷つけてしまった』と落ち込んだ。


布津が声を掛けてくれなければ――

亮に会わなければ――――




「待ってたんだ」

「あ・・・布津君」


タオルで汗を拭きながら布津が目の前に立つ。


「悪いな。いつ話すか決めてなかったから」

「ううん。終わるまで待ってるよ」

「遅くなるぞ」

「大丈夫」



普段どおりに話し掛けてくれるのは気を遣ってくれているからか・・・




布津を待つ間まるで不安定なものに座っているかのような落ち着かない気持ちのままだった。
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