有明先生と瑞穂さん
――『甘え』?



彼女は今まで甘えなかっただろうか?

そんなことはない気がする。

しがみついて、顔をうずめて、溶けるような顔をしていた――。



しかしまた頭によぎる。


電話越しでの瑞穂の言葉。

言いたいことを飲み込んで言葉を選んで相手のことを考えながら言っていた。
その時はどんな顔をしていたのだろうか――。




「悔しかったら瑞穂に『ワガママ』言わせてみろよ」



ようやく布津が自分を煽っているのだと気づいた。



噛んでいた唇の力を緩め、ふっと笑う。




「君ってお人よしだね」


「・・・! うる、うるせっ!」


「そんなに人がいいのもわが身を滅ぼすよ」


「・・・俺は瑞穂が辛そうにしてんのが嫌なだけだよ」


「うん・・・」




――瑞穂さん、君って趣味が悪いね。
こんなにいい彼を振るなんて。




「そうだね。ごめん」


もう一度謝れば、「わかりゃいいんだよ」と恥ずかしそうな顔をしながら階段を上って戻っていった。
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