有明先生と瑞穂さん
『本当に今日は無理なんです・・・』

「何かあるの?」

『え!!ええっと・・・・・・』


自分のしつこさには呆れるが、瑞穂が言葉を詰まらせたことでそれが嘘だとわかる。


「俺待ってるから。ゆっくりでもいいから準備ができたら」

『ま、待ってください!私行くなんて・・・!』

「やっぱり、怒ってる」

『う・・・・・・』


責められるべきなのは自分なのになぜか今は瑞穂を責めている。
それが逆ギレみたいでみっともない。

それでもこうしないと瑞穂は会ってくれない気がした。


――まだ二人はお互い一歩引いたままだ。

そのままでは駄目なのだ。


相手に歩み寄ってほしいのならば、まずは自分から歩み寄っていかなければ相手も近づくはずがない。



『・・・・・・怒ってるって思うのに、どうしてそんな強引なことするんですか』


ようやく少しだけ本音が見えた。
声が震えている。
きっと緊張しているんだ。



「瑞穂さんが電話に出てくれたからだよ」

『――――!!』



電話を掛け始めてからずっと緊張で心臓がドクドクと早く鳴る。

ずっと無視されたらどうしようなんて、少しだけ考えてた。



『そんなことないです・・・。
私本当は一回目、無視しちゃいました』

「でも今は出てくれたじゃない」

『・・・・・・』


'ポーン・・・'


『えっ、何ですか?今の音・・・もしかして・・・』


エレベーターを降りると外にさらされた廊下は風が吹いて少し寒い。


「うん。もう着いちゃった」


『ちょっ・・・!何やってるんですかあ!』


電話口でバタバタとせわしない音が聞こえた。



『もう!先生ってほんと強引!外はもう寒いのに・・・・・・

すぐ準備するんで待っててください!』

「はははっ」


電話は乱暴に切られ、数分としないうちに瑞穂の姿が見えてバタバタと走ってくる。



「ごめんね、急がせちゃって」

「ほ、本当ですよ!」


息を切らせながらも戸惑う顔。



「ようやく会えた」
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