有明先生と瑞穂さん
(・・・・・・噛まれた・・・)


口元を押さえるが、噛まれたのは舌。

ジンジンとする痛みとともに次第に鉄の味が広がる。



瑞穂を見るとクッションを盾のように持ち部屋の隅で真っ赤になってブルブルと震えていた。


・・・・・・背中と胸元が若干開放的というか・・・違和感。



(ぶっ、ぶっ、ぶっ、ブラのホック外された・・・・・・!)



場の空気としては予想できていたことなのにどうしてだろう。
有明先生がそういうことをするなんて――とひどく驚く自分がいる。



「みずほさ・・・」

「うびゃああぁぁっ!!」


「・・・・・・」



シーンとする二人だけの室内。


お互いに
「ああ、やってしまった」
と後悔する。



(先生呂律回ってないしすっごい痛そうな顔してるけど・・・
さっき思いっきり噛んだのってやっぱり舌だよね)


人の舌なんて初めて噛んだ。
というかそもそも人の舌が自分の口に入ってくるなんてそんなこと自体初めてだ。


なんだアレは。何なんだ一体・・・。
そうだ確か世の中では一般的にこう呼ばれているアレだ。



(でぃ、でぃーぷ・・・・・・)


ボワッと顔から湯気が出たような気がした。



(うぎゃあああ!!舌って何だよ舌ってぇええ!!
あっそうだ、牛タンって確か牛の舌なんだよね。
アレと一緒か!
確か金曜日居酒屋で牛タン出たわ。おいしかったー。レモンでさっぱり食べるの。
ちょっと硬いけどあの触感がいいんだよねーウンウン。



ってちがあぁあああうう!!)



有明から見る瑞穂はクッションに顔をグリグリとうずめたりバシバシ叩いたり「うぐぅ~~」と唸ったり、少し奇妙な光景だ。

しかしよっぽどパニックになっていることはよくわかった。



「ご、ごめんね・・・。大丈夫?」

「えっ?!牛タン?!」

「は?!牛タン?!!」



「・・・・・・」

「・・・・・・」


またしてもシーンと静まりかえってしまった。
< 1,085 / 1,252 >

この作品をシェア

pagetop