有明先生と瑞穂さん
***




「・・・あれ、なんか瑞穂さん怒ってる?」

車内、有明の問いかけにも答えず瑞穂はムスッと口を尖らせていた。


「もしかしてさっき布津君と一緒にからかったこと?」

「違います」

そんなことでイチイチ拗ねるような面倒な人間じゃない、と瑞穂は反論した。



「確かに、有明先生は機転が利くし嘘も辻褄合わせも上手だからいいのかもしれないけど・・・
やっぱりちょっと危機感が足りないと思います」

「・・・・・・今日のデートは中止にするべきだったって言いたい?」

「そりゃ・・・そうですよ」

「イヤだよ」

「!」


有明は不機嫌そうにキッパリと言い捨てた。


「今日あんなことがあったからって出かけた先でまた別の危機があるわけじゃない。
ないとも限らないけど、じゃあ来週に予定を変更すれば危険じゃなくなるの?」

「それは・・・・・・」

「だから、今日出かけるのを中止したって無意味だよ」


その正論に言い返す言葉が見つからず瑞穂は押し黙った。

有明の言うことは正しい――が、やぱり納得がいかない。


瑞穂の態度に有明は眼鏡を指で押し上げ小さくため息をついた。



「危険だから別れる――なんて言い出さないでね」

「え・・・・・・」


その言葉にドクンと心臓が嫌な音を立てる。
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