有明先生と瑞穂さん
「中に入る?」

小浜は今出てきたばかりの給湯室を指差す。

答えに迷っていると
「人に聞かれたくないのは瑞穂さんの方でしょう?」
と言うので、不安はあったが部屋へと入った。


小浜は手に持っていたシーツやタオルを適当な場所へ置くと律儀にもお茶を出してくれた。

瑞穂はそれに口をつけずにそばに置く。


「ふふふっ、怖い顔」

「茶化さないでください」


本当は怖い。

だけど逃げることはしない。



「そうよね、瑞穂さん今大変だものね」

「・・・・・・!」


頭にカッと血がのぼる。



「誰のせいだと思ってるんですか!!」


思わず大声が出てしまい。
ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着けた。


それを見て小浜は驚くことなく、今度は噴出すようにして笑った。


「そりゃ、楽しいでしょうね・・・。
今私は小浜先生の思い通りになってるんですから」

「ふふふっ、確かに可哀相な貴女を見てる分には気分はいいわね」


――最低・・・。



「でも何か勘違いしてるんじゃない?」

「え・・・?」



「だって貴女は、貴女自身が今おかれた状況は私のせいだって言ってるんでしょう?」


小浜の細い人差し指が、見下すようにすっと瑞穂の顔の先に指差される。たったそれだけのことなのに、その細い指先に圧倒されそうだ。


瑞穂は少しだけのけぞってしまった体をもう一度起こし、小浜を睨みつけた。



「そうです。じゃないと・・・都合よくこんな噂が蔓延するわけない・・・!」


この間と違い、もうおびえてばかりでない瑞穂から小浜はその手をゆっくりと降ろした。




「だから、バカみたい」



また小浜が口元だけで笑う。
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