有明先生と瑞穂さん
「ごめん、有馬さん・・・。もう少し・・・もう少しだけ考えさせて・・・」

「・・・・・・」


そう言うと有馬はそれ以上は何も言わなかった。



「・・・一緒に帰ろう」


それでも呆れずに突き放すことなく一緒にいてくれる。


その優しさに触れるたびに自分がひどく汚く思えて仕方なかった。


俯き涙をぬぐう瑞穂の手を引いて歩いてくれる。


高校生にもなって手を繋いで帰るだなんて少し恥ずかしいけれど、嬉しくて繋いだ手に少しだけ力をこめた。





私達の関係はどれもこの手のように、しっかり繋いでいないと簡単に離れてしまうような気がしてならない――



どうかほどけないで・・・。







***



夜8時過ぎ――

部活を終えて電車を待つ布津は携帯に一通のメールが来ていることに気づいた。

送信者は瑞穂。


『部活が終わったら会えないかな?』


家に着く頃の時間を瑞穂に返信すると、家の前で瑞穂が待っていた。


「お疲れ。ごめんね、疲れてるのに」

「いいよ。何があった?」

「とりあえず家に入れてよ」

「有明に何か言われないのか?」


「・・・大丈夫」


曇った笑顔の瑞穂に疑問を感じながらも家に招き入れた。


家に入ると布津の家族が笑顔で瑞穂を迎え入れ、何事もないように瑞穂も明るく返す。


それなのに部屋に入って扉を閉じた瞬間、瑞穂の顔から一切の笑顔が消えた。



「どうした・・・?何か変だぞ」

「相談があって・・・もう何が正しいのかわかんなくなっちゃったんだ」


そう言うと瑞穂は布津のベッドに全ての力を抜いて重力のままに倒れこむ。


布津は一瞬ドキリとして、ベッドから机を挟んだ壁にもたれ掛かって座った。
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