有明先生と瑞穂さん
あんなに恐ろしかった有明が、こんなに弱くて愚かな瑞穂にあたふたと心を乱されている。

機嫌を取り繕うその姿は少し滑稽だ。


「ちょっ・・・触んないでくださいぃー!」

「待ってってば瑞穂さん!」


瑞穂がずんずんと歩いて行けば有明は慌ててそれを追って、小浜を置いて行ってしまった。



一人残された小浜はズルズルとその場に座り込んだ。




「・・・・・・馬鹿みたい」




負け。
なにもかも負け。


あんなに弱くて何もできない子に負けてしまった。

プライドも何もかもズタズタだ。


小浜はしばらくそこに座り込んでいた。














追いかけてくる有明を無視して瑞穂は図書室へ入る。


「ちょ・・・あんなことがあったんですからあんまり一緒にいないでください」

「なんかすごく冷たいよね・・・」


有明に構わずキョロキョロと愛野先生を探すが、どうやらここには誰もいないようだ。


「あれ・・・鍵も閉まってないしどこに行ったんだろう」

「ああ、愛野先生に会いに来たの?
なんか急いで帰らなきゃいけないらしくてまた鍵を預かってるんだけど」

「は、早く教えてくださいよ!」


それじゃあもう用はない、といつものクセで瑞穂は窓の鍵を確認に行く。今度は有明が一緒にカーテンを閉めて手伝った。


「・・・手は、大丈夫なんですか?」

「ん?これ?」

見せた左手は、巻かれた包帯と黒ずんだシャツの血が痛々しい。


「そんな手で・・・あんなこと・・・」


・・・私のせいだ。
私のせいでこんな怪我をさせてしまった。

有明先生を守りたかったのに、逆に守られて、危険な立場にまで立たせてしまった。

結局有明先生は自分でそれすら切り抜けて、私まで守った――。


一人で空回りしていた自分はなんて馬鹿なんだろう・・・。
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