有明先生と瑞穂さん
子供の頃、教師は完成された人間だと思っていた。

大人はみんな完成された生き物なのだと――


しかし学校を卒業しても、成人しても、社会人になっても、いざ『何か』になってみても自分が大人になった区切りというものがわからない。

大人と混ざって仕事をして、生徒から『先生』と呼ばれて、客観的には自分は大人なのだと漠然と思う。


大人=完成ではないと知る。




「本当は僕は、口之津先生にそう思ってもらえるような教師ではないですよ」


全ての火種は自分なのだ――。


心の中では自分を責めていた有明を、口之津の言葉が救ってくれた。

初めはなんて破天荒な人だろうと思っていたのに――





「俺と有明先生は性格も何もかも真逆です。
でも、だからこそ、いつか同じ場所で、今度はきちんと教師として仕事をしたい――・・・。

俺、ここに戻って来たいです」


「口之津先生・・・」



こんなトラブルメーカーと同じ職場だなんて少し面倒だなあ、なんて思いながらも口元が緩んだ。









「さてと・・・」



口之津がタバコを吸い終わった後、残ったコーヒーを流し込んで立ち上がる。


「そろそろ戻りましょう。
口之津先生はともかく僕までサボってると信用に関わりますからね」

「うわっ、ヒデエ!」

「あはは」


カランと音を立ててゴミ箱に空き缶を二つ入れそのまま歩きだす口之津は、前の方で振り向かずにもう一度

「有明先生」

と名前を呼んだ。



「俺、有明先生のこと教師としてはスゲー尊敬してます。

だけど、一人の男としてはいただけねえ。

確かに、有明先生のやり方が一番よかったのかもしれねえ。
俺にはどうするのがよかったかなんてわかりません。

だけど、だけどね先生、



俺だったら嘘でも、好きなヤツにあんな顔させねえ。



・・・絶対させねえ」



「・・・・・・」



静かな校舎。


大きな風が木々を揺らして

ざあっ、と音を立てた。
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