有明先生と瑞穂さん
図書室まで来ると、まさに愛野先生が鍵をかけようとしていたところだった。


「まってくださぁああ~~~!!!」

「あらあら、どうしたの?瑞穂さん。
廊下は走っちゃだめよ」


注意を無視して図書室に飛び込むと、一目散にアルバムのある場所へ向かう。


「あらなあに?」

「そ、その、調べ物をッ・・・!
鍵は閉めてきますんで置いててください!」

「そう?何を調べてるの?」


瑞穂はギクリと肩を揺らした。


「・・・・・・その、クラスの企画で・・・せ、先生達のリストを・・・」

「リスト?名簿なら載ってないわよ。
このご時世ですもの、個人情報はアルバムには」

「あっ、ですよねーーーー!!」


親と同じことを言う愛野先生に、開いていたアルバムを落とし大きくうなだれた。


「名簿が必要だったの?」

「えっ?!いえ・・・!違うんですっ!
こ、このアルバムで十分です!」

「そう?それじゃああまり遅くならないようにね」


愛野先生はそのまま鍵を置いて帰ってしまった。


ひとりポツンと残された瑞穂は脱力感に襲われる。


(アルバムも必要ないし・・・。何とっさに無駄な嘘ついてんだ、私)


もう用のなくなった去年のアルバムを、瑞穂はパラパラと捲ってみた。有明の名前はおろか、写真すらない。

有明もこの学校に新任で来たばかりのころだし、今でも担任を持っているわけではない。
当たり前だ。

アルバムを本棚に戻すと当てもなくフラフラと本棚の奥に入った。


(ちょっと前までこんな夕方に一人でここに来るのはちょっと怖かったんだよね)


図書室の奥の薄暗い場所。
滅多に使われることのない古びた辞書などが並ぶ本棚。


今はもう、大好きな場所だ――。
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