有明先生と瑞穂さん
瑞穂がしゃがむ上の方で、辞書より厚くて大きな図鑑が三冊ほど飛び出し、瑞穂が辞書を引くたびにグラグラと揺れている。

図鑑もめったに使われないが、誰かが興味本位で引き出したのだろう。
しかしこれもまた取り出しにくく、途中で諦めてバランスが悪いまま放置したようだ。


だから瑞穂が辞書を引き出すたびにその振動で

ズルッ、ズルッっと音もなくずれ落ちる。



それに瑞穂は気づかない。

辞書を引き抜くことに必死だ。





「ん?」


瑞穂の上に影ができた時、瑞穂はようやく気づいて上を見上げた――。



「危ない!」


「!」


影の持ち主が大きな図鑑を手で支える。



「えっ・・・・・・?!」


その拍子に有明の辞書もすっぽ抜け、瑞穂の手に収まった。





「危ないなあ、瑞穂さんは」



「有明先生・・・・・・!」



上を見上げれば図鑑を支えた有明が瑞穂を見下ろす。


「えっ、なんでここに・・・」

「ちょっと待って」


有明が図鑑を押し込む様子を見て初めて、瑞穂は状況を理解した。


「うわっ!それ落ちそうだったんですか?!」

「そうだよ。下手すれば大怪我だよ」


その言葉に瑞穂はぞっとする。


図鑑を入れ終わると有明は座り込む瑞穂に手を差し出した。

瑞穂はためらうことなくその手に自分の手を重ねる。


(あ・・・なんか、これって・・・)


「あの時みたいだね」

「!」


同じことを考えていた――

それが少し嬉しい。



「こんな時間までひとりでどうしたの?」

「えっ・・・!あ、え~っと・・・」


瑞穂はハッとして手元の辞書を確認する。

しかしどこを見てもフルネームで名前なんて書かれていなかった。
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