有明先生と瑞穂さん
「だめ。」

「・・・・・・・・・」


意地悪な有明がそうそう許すわけがないことは百も承知だ。

予想通りの意地悪な笑顔。



――でも正直、この笑顔は嫌いじゃない。


(有明先生が私だけに向ける顔だから)


ぶぅっと唇を尖らせて拗ねて見せると、有明は両手で優しく顔を上げさせた。

こちらが拗ねるのは逆切れでしかないが、「そう何度も思い通りにさせませんよ」というせめてもの抵抗だ。


しかし有明は何も言うことなくその尖らせた唇に優しく自分の唇を重ねる。


「・・・・・・!」


やはり有明はいつも一枚上手。
・・・・・・敵わない。



「学校ですよ」

なんてもう言えない。


久しぶりの感触に、気づけば自分から有明の背中に腕を回していた。



唇が離されて目が合う。



「先生・・・名前、教えてください」


ほんの数センチだけ離れた距離でそう言えば、有明は少し恥ずかしそうに視線を泳がせ、頬を染めて瑞穂の目を見た。






「・・・ゆきひと、」

「!」


「降る『雪』に、人間の『人』で雪人」



なるほど、と瑞穂は納得する。

加津佐が「スノーマン」やら「雪女」やら言っていたわけだ。
今思えば不自然な悪口。なぜ気づかなかったのだろう。



「『幸せ』とか、そういう漢字ならわかるけど『雪』なんてちょっとおかしいだろ?」


恥ずかしそうにそんなことを言う先生はまるで子供のようだ。


「そんなことないですよ。ピッタリです」

「・・・瑞穂さんも加津佐みたいなこと言う?」

「あははっ、違いますってば」



綺麗な雪とぴったりだと言いたいのに。



(私の名前と少しだけ対になってますね)

(なんて、『雪』と『晴』じゃちょっと苦しいかなあ)


こういう、すごく乙女な思考を持つようになったのは、少し前の自分からじゃ考えられない。
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