有明先生と瑞穂さん
瑞穂と国見の姿が見えなくなったあと、加津佐は有明の顔を見てニヤニヤしていた。


「・・・言いたいことがあるなら言え」


そんな加津佐の方を振向くことなく、トランクから荷物を降ろしながら言う。


「いや~。昨日俺らがいない時に何話してたのかなぁーって」

「絶対言わない」


有明はあくまで表情を崩さないまま、喋繰る加津佐に荷物を持たせた。


「有明アレだね。
ホントに晴ちゃんのことが好きなんだね」

「・・・そう言ってただろ」


不機嫌に開き直る態度が余計に加津佐を笑わせた。


笑う加津佐に構わず荷物を持って足早に一人歩いていく。

その様子を後ろで苦笑しながらついて行った。



(有明がここまで人を好きになることもだけど、恋愛でこうも変わるなんて思ってもみなかったな)


(ずいぶん前に言ってた『初恋』ってのもあながち間違いじゃなかったんじゃん)




(でも・・・・・・)




(でももし、晴ちゃんが有明を選ばなかったら・・・)



(もしそうなったら、ここまでになってしまった有明はどうなるんだろう―――・・・)





有明が滅多に人に心を開かないことも、執着しないことも加津佐はよく知っている。

それは裏を返せば自己防衛であることも。
つまりその分有明が本当はメンタルが弱いことを、有明本人より知っている。




「初恋の失恋は風邪と一緒で大人になってからのが辛いぞ、有明」



加津佐は先行く有明の背中に向かって聞こえない程の声で呟いた。
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