有明先生と瑞穂さん
「え・・・・・・?」



不良達の声ではない。

聞き覚えのある優しい声。
それでもその声は少し悲しそうで、怒っているようだった。




(・・・有明先生?)



なんで・・・?




『俺がどんな顔してたか

何を考えてたか


知ってたくせに


気付かないフリをしてたでしょう?』


「・・・・・・っ!!」


振向くことができない―――。



(そうだ・・・
さっき有明先生の車に乗ることを断った時―――
私は気付いてたんだ)


それでも、見ないフリをした。


(私は・・・)

(私は、なんて――・・・)


『ひどい子だね』


有明先生の声が冷たく言い放つ。

瑞穂の心臓がズキリと痛んだ。



「ち、違います・・・。違うんです」

『臆病だね。
君はいつも見て見ぬフリ』

「だって・・・仕方ないじゃないですか」

『どうして?』

「だって私、まだどうしたらいいか」

『だから、俺のことも布津君のこともずっと待たせてる?』

「・・・・・・」

『俺らがどういう気持ちか考えたことある?』


有明先生の声が核心をついてくる。

言い返すことなんてできない。
全て本当のことだから。
今まで目を背けてきたことだから。



『いっそ切り離してしまうのが本当の優しさだって、わかってるでしょう?』


『でもそれをしないのは、』


『瑞穂さんの我侭。』


『結局誰も、自分から離れていくのが怖いから――――』


「・・・やめて!!」





ずっと考えないようにしていたことなのに――

それでもずっと心の中で思っていたこと。




(ああ、これは・・・私の夢か・・・)


夢でも有明先生がこんなに怒っているところなんて、見たくないな――・・・



腕はずっと捕まれたまま身動きが取れない。



それでも瑞穂は振向いて、腕を掴んだ彼を見た。
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